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福岡地方裁判所 昭和47年(ワ)1440号 判決 1976年10月15日

原告

葛原昭歳

ほか一名

被告

藤田正雄

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告葛原昭歳に対して金一〇一万二八五八円及びこれに対する昭和五一年一月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告栗田芳雄は原告西津仁平に対し金五万一九五〇円及びこれに対する昭和四七年一二月七日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告葛原昭歳のその余の請求及び原告西津仁平の被告藤田政雄に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告葛原昭歳と被告ら間に生じた分についてはこれを三分し、その二を同原告の、その余を被告らの負担とし、原告西津仁平と被告藤田政雄間に生じた分については同原告の負担とし、同原告と被告栗田芳雄間に生じた分については同被告の負担とする。

五  この判決の第一項第二項については仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判(被告栗田を除く)

一  原告ら

「被告らは各自原告葛原に対し金四二七万八〇五〇円及びこれに対する昭和五一年一月三〇日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

被告らは各自原告西津に対し金五万一九五〇円及びこれに対する昭和四七年一二月七日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並に仮執行の宣言。

二  被告 藤田

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二  当事者の主張

一  原告らの請求原因

(一)  事故の発生

左の事故により原告葛原は負傷し、被害車が破損

日時 昭和四七年六月二七日午前八時四〇分頃

場所 佐賀県三養基郡上峰村切通橋先国道三四号線上

加害車 大型貨物自動車(三河1さ四六五八)

右運転者 被告栗田芳雄

被害車 大型貨物自動車(福岡1あ二九九七)

右運転者 原告葛原昭歳

事故態様 被害車が佐賀方面へ向つて進行中加害車がこれに追突した。

(二)  責任原因

1 被告藤田は加害車の所有者であり、被告栗田を雇傭して加害車を同被告に貸与し被告藤田の青果販売業のため運転させていたものであり、本件事故は右業務の執行中に発生したものであるから同被告は自賠法第三条の運行供用者としての責任及び民法第七一五条の使用者としての責任がある。

2 被告藤田は前方不注視の過失により被害車に加害車を追突させたのであるから、同被告は民法第七〇九条による不法行為者としての責任がある。

(三)  損害

1 原告葛原は頸部、頭部挫傷の負傷をし昭和四七年六月二七日より同年八月一六日まで五一日間新宮外科病院に入院、同年八月一七日より同年一〇月三一日まで一二七日間通院治療し、現在も頸部、肩部に激痛があり、目まいに襲われる後遺症があり、これを自賠法施行令第二条の等級表一四級に該当し、次の損害を蒙つた。

イ 休業損害 金三六七万七二〇〇円

一日二九〇〇円の割合で昭和四七年六月二七日から同五〇年一二月三一日まで一二六八日分

ロ 入院雑費 一万五〇〇〇円

一日当り三〇〇円 五〇日分

ハ 逸失利益 一〇万五八五〇円

一日当り二九〇〇円の一〇〇分の五につき二年分、

ニ 慰藉料 四八万円

2 原告西津は、本件事故によりその所有にかかる被害車につきその破損部分修理のために修理費用五万一九五〇円を要した。

二  被告藤田の答弁

(一)  請求原因(一)は不知。

(二)  同第二項の1については否認する。すなわち、加害車がもと被告藤田の所有であつたこと、本件事故時その所有名義が同被告のものとされていたことはあるが、同被告は昭和四六年一一月一一日これを訴外三菱ふそう自動車販売株式会社に売渡し、同会社はその後これを同月三〇日に被告栗田に売渡していたものであり、本件事故時は、被告藤田は本件加害車の所有者ではなく、同被告は被告栗田を雇用していたのではなく、青果物の運送を依頼していたに過ぎないのであり、自賠法第三条の運行供用者にも民法第七〇九条の使用者にも該らない。

同第二項の2については不知。

(三)  同第三項についてはいずれも不知。

第三  被告栗田は適式な呼出を受けたが本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面をも提出しない。

第四  証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

右に関する請求原因(一)の事実については被告栗田において明らかに争わないので、民事訴訟法第一四〇条により同被告において全部自白したものとみなすべく、被告藤田との関係においてはいずれも成立に争いのない甲第一号証ないし同第五号証によれば、原告主張の日時、場所において、原告葛原運転の被害車が佐賀方面へ進行中、前方に停車中のバスを発見し停車したところ、被告栗田運転の加害車が追突したこと、右追突の原因は被告栗田の前車の動静等についての前方不注視によるものであることを認めることができ右認定に反する証拠はない。

二  責任原因

(一)  被告栗田の責任原因に関する事実については同被告において明らかに争わないので民事訴訟法第一四〇条により同被告においてこれを自白したものとみなすべく、右事実によれば同被告は民法第七〇九条による責任がある。

(二)  被告藤田の責任原因については加害車を従前被告藤田が所有していたこと、本件事故時右車両の登録名義人が同被告であつたことは同被告において自認するところであり、同被告は右車両は昭和四六年一一月三〇日被告栗田が訴外三菱ふそう自動車販売より買受け所有権者となつたものであると主張し、乙第一号証ないし同第三号証を提出し、右はいずれも証人稲垣邦雄の証言により真正に成立したものと認められるが、乙第一号証については同被告と右会社間の売買契約の成立を証するに足りず(単なる注文書であり、作成月日の訂正部分あり、取締役認印欄の日付と不符号であり、売上日、完済日の記載なし)乙第二号証、同第三号証についても被告栗田の所有権取得を証するに足りない(納期についての記載第二号証と第三号証は不符合、二〇回の月賦払いで初回が四七年一月であるのに完済が同年二月一九日となつていること、二〇回の月賦払期間中は通常所有権留保とされるのに第三号証では四六年一一月一一日に所有権移転の記載あり)のみならず、成立に争いのない甲第四号証、同第八号証によると被告栗田の本件事故後の警察における供述では本件加害車両は藤田青果のものであると述べ、加害車の保険期間昭和四七年二月一八日から一年間についての自賠責保険契約申込には被告藤田名で申込がなされ、同年一月二七日に保険料が納付されていることから、当時において被告藤田が本件加害車の所有者ではないかと推認される一面があること、更に、前記乙第二号証、被告藤田、原告栗田(第一回)各本人尋問の結果によると被告栗田は本件事故前約三年前から被告藤田の青果物を三年間にわたり運搬に従事する契約をなし、被告栗田は運送業の免許はなく、業として他からの運送をなすことはなく、被告藤田方の仕事がないときに他から材木運搬業を引受ける以外は専ら被告藤田の指示による青果運搬の仕事に従事していたこと(乙二号証によれば被告栗田の職業は青果荷受となつている)被告栗田は自らは藤田方に勤務する運転手であると考え原告葛原や警察にその旨供述しており、運賃についても積載物の種類、重量、運送距離等に基いて支払われるものではなく、運送業者等に対する支払とは異なり概括的、一方的に九州まで一車当り何円と決められて支払れていたこと、本件事故時加害車の車両の一部には「藤田青果」と表示されており、本件事故時においては加害車は被告藤田の青果物を運搬中であつたことの各事実が認められ右認定を左右するに足りる証拠はない。

右被告藤田の自認する事実及び認定の各事実によれば、被告藤田において、本件事故時仮に加害車の所有権者でなかつたとしても、被告藤田は運送業の免許を有しない被告栗田をして約三年前より継続的かつ専属的態様で加害車によつて被告藤田の青果物輸送をなさせ、経済的に依存させ、本件事故時実質的にも、車両の名義外観上及び被告栗田の行為の外形上からも、被告藤田の利益のために被告栗田が本件車両を運行し被告藤田が正規の運送業者に依頼する以上の運行上の利益を得ているものと認められ、かつ、その運行につき直接間接に指揮関係を有していたものというべく、被告藤田は自賠法第三条一項の自己のために加害車を運行の用に供するものに該るものと判断され、同被告は右法条に定める責任を有する。更に前掲各証拠によるも被告栗田が被告藤田の従業員であることを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、原告らの同被告に対する民法第七一五条による責任を理由とする請求は失当である。

三  損害

(一)  原告葛原

1  基礎たる事実

いずれも成立に争いのない甲第一一号証ないし第一三号証、原告葛原本人尋問の結果(第一、二回)いずれも真正に成立したものと認められる甲第一四号証、同第一五号証、同第二一号証の一ないし三一によると同原告は本件事故前株式会社西津産業に運転手として勤務し一ケ月平均八万五八三三円の給料を得ていたところ、本件事故のため、頸部、頭部挫傷の傷害を負い昭和四七年六月二七日から五一日間入院治療し、同年八月一七日から一〇月三一日まで七六日間(内実通院日数二三日)通院治療し、同日で症状固定と診断されたが、頭がふらふらし頸部、肩、首筋に疼痛が残る後遺症があり、そのため症状固定もかなりの期間欠勤等をやむなくされ、その程度は自賠法施行令第二条所定の第一四級に該るものと認定することができ右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  休業損害及び逸失利益 五一万七八五八円

右認定のとおり、同原告は本件事故時からその負傷の症状固定時まで一二七日間休業をし、その間次の計算のとおり得べかりし利益金三六万三三五九円を喪失したことになる。

(1ケ月の平均賃金85,833円×127/30)

更に前記後遺症の症状固定後の欠勤等による減収については、右認定の後遺症の部位、程度、同原告の職務の内容との関連等一切の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある労働能力喪失による逸失利益としては、症状固定後一年間については、右後遺症がなければ予定される収益の一〇〇分の一〇、その後更に一年については右収益の一〇〇分の五と認めるを相当としその合計額は金一五万四四九九円となる。

(85,833円×12×15/100)

3  入院雑費 一万五〇〇〇円

前記入院期間中一日当り三〇〇円を下らない入院諸雑費を要することは公知の事実でありその五〇日分の請求は理由がある。

4  慰藉料 四八万円

前記各認定の本件事故の態様、負傷の部位、程度、入通院期間、後遺症の部位、程度、本件全証拠によるも被告らにおいて全く被害弁償に誠意を示した事実が認めるに足りないこと、成立に争いのない甲第一八号証によると同原告において自賠責保険金より治療費の他に自ら一一万二五四〇円の損害の填補を受けていること、本訴請求について弁護士費用を含まないこと等一切の事情を斟酌すれば本件事故による同原告の慰藉料としては金四八万円を下らず右を求める同原告の請求は理由がある。

(二)  原告西津の物損

原告葛原本人尋問の結果真正に成立したものと認められる甲第二〇号証、同原告本人尋問の結果によると被害車両は本件事故による破損の修理のため五万一九五〇円の修理費を要し、その所有者たる原告西津は同額の損害を蒙つたことが認められ右認定に反する証拠はない。

四  結論

以上のとおり、被告藤田は、自賠法第三条により原告葛原の人身事故による損害合計一〇一万二八五八円及びこれに対する請求拡張の準備書面送達の日の翌日たる主文記載の日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、被告栗田は民法第七〇九条により原告葛原について右同額の支払義務があり、原告西津について、金五万一九五〇円及びこれに対する本訴状送達の翌日たる主文記載の日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告らの本訴各請求のうち右の支払を求める限度で理由があり、これを正当として認容し、原告西津の民法第七一五条を理由とする被告藤田に対する物損についての損害賠償を求める請求部分及び原告葛原のその余の請求部分はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村恒)

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